ストリートアートは資本主義への挑戦状なのか?バンクシーの稼ぎ方から考える

No_003|バンクシー

概要

中世から現代までの画家の稼ぎ方

バンクシーとは何者なのか?

バンクシーの稼ぎ方

フリーという考え方

既存の資本主義を破壊する新しい資本主義

2020年製作の映画『バンクシー 抗うものたちのアート革命』が、2023年に日本でも公開された。バンクシーは世界中の都市の壁、橋などを舞台に作品を発表するも正体は不明。

これまでの画家とは一線を画すスタイルに注目が集まっている。これまでの画家の稼ぎ方を検証し、バンクシーを参考にこれからの画家の稼ぎ方について考える。

中世から現代までの画家の稼ぎ方

社会が複雑になり国家などが形成されるに伴い、社会構造が大きく変化した中世。支配構造が確立し、権力者に富が集まるようになる。

権力者は宗教家を庇護するようになり、その宗教家の求めに応じて画家が作品を制作する。職業画家の台頭だ。無名の職人として扱われていた画家が、名のある芸術家として地位を築くようになったのがこの時代だ。

宮廷画家は職業画家の一種で、王侯貴族の依頼に応じて作品を制作していた。多くが固定給で雇われており、地位や邸宅を与えられることもあった。今風に表現すると、サブスクリプションで画家と契約するようなものだろうか。

近世になると宗教の縛りから自由になり、人間中心主義の作品が多く誕生する。レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、フェルメールなど著名な画家が活躍した時代だ。ミケランジェロは、権力者などからの依頼を受けて作品をおさめていたようだ。

18世紀中ごろになると、資本主義が広がりはじめ、ゴッホなど個性あふれる作品を描く画家が多く登場する。しかし、モディリアーニのように生前には作品が安値でしか売れず、死後、高値で取引されるような画家もいる。

現代は、画家も多様化し、広い意味ではイラストレーターや漫画家も画家の部類と言えるだろう。出版物だけでなく、電子データでも作品が扱われるようになり、安価に入手可能に。権力者が出資して一点一点制作していた時代と比べると、複製して広く収益をあげることも可能だ。

現代において、絵画は特別なものではなく資本主義のなかのひとつの商材でしかなくなってきているのかもしれない。貴金属のように一品ものを制作し、画商を通じて販売するか、大量に複製をして消費財のように販売するかの2通りの稼ぎ方が主流になっているのではないだろうか。

バンクシーとは何者なのか?

1970年代前半にイギリスのブリストルで誕生したと言われるバンクシー。

ブリストルは、17世紀から18世紀に奴隷貿易で栄えた街で、黒人文化を受け入れる土壌ができていた。そのため黒人特有のレゲエやヒップホップなどの音楽が、ヨーロッパのなかでいち早く取り入れられる。ヒップホップから生まれた「グラフィティーアート」も芸術のひとつとして受け入れられた。グラフィティーアートの最前線を行くのがバンクシーだ。

紙に描く絵画もあるが、大半はグラフィティーアートだ。その理由をバンクシーは「住民が気に入れば作品は残るし、だめなら上書きされるか清掃される」と語っており、最も民主主義なアートだと語っている。

また、お金持ちなどの特権階級だけが楽しめる娯楽から、ポストカードなどの登場により安価に楽しめるようになったものの、生活に余裕がなければ絵画を楽しめない状況に異を唱え、壁画であれば無一文でも楽しめると主張している。

ある意味で、資本主義的になっている芸術に反抗し、民主主義的な芸術を主張している存在だと言えるだろう。

バンクシーの評価が高まるにつれて、バンクシーのグラフィティーアートが持ち主により販売され高値で取引されるケースもでているが、バンクシーはそこから利益を得ていない。果たして、彼はどうやって利益を確保しているのだろうか。

バンクシーの稼ぎ方

バンクシーがグラフィティーアートを描く際に、ステンシルが用いられる。これは、金属や防水性の素材に文字や模様を切り抜いて紙や布の上に置き、その上から全体的にスプレーを行い、抜かれた穴の部分に色を付ける手法。このステンシルや、シルクスクリーン、リトグラフなどを用いたエディション作品を制作している。

また、模倣品が市場に溢れかえらないように作品の真偽を認証・保証する機関を自ら設立し、作品が最初に世に出る第一次市場を限定している。その際の価格は、市場価格より安く設定しているのも特徴だ。

本来であれば、バンクシーの収益源は壁画だと思われる。

ただ、壁画を自身の収益の対象にすると、資本主義化された絵画となんら変わらず、彼の意思にはそぐわないのだろう。壁画を無料で公開し、話題を醸成することで、エディション作品を販売する土壌を作るとは、これまでにない稼ぎ方だ。

フリーという考え方

2009年に日本でも翻訳された書籍「フリー 〈無料〉からお金を生みだす新戦略」がある。著者は書籍の中で、無料のルールについて述べている。なかでも「フリーからもお金儲けができる」「フリーは別のものの価値を高め合う」「希少なものではなく、潤沢なものを管理しよう」は、バンクシーの戦略を示しているように見える。

壁画を無料で見れるようにし、エディション作品の価値を高め、希少な壁画ではなく、潤沢なエディション作品を管理する。絵画の世界にフリーという考え方を導入した先駆者と言えるだろう。

この書籍が発売されてから10年以上経過しているが、フリーで利用できるサービスは年々増加している。絵画の世界以外でも、この戦略を取り入れるべき業界があるかもしれない。

既存の資本主義を破壊する新しい資本主義

バンクシーは資本主義を否定したり、権力に対抗したり、政治色の強い作品を残している。また、大きな美術館や博物館に侵入して、自分の作品を無許可で陳列するパフォーマンスをするなど、ニュースに事欠かない。

資本主義の道具に成り下がってしまった絵画を、かつて洞窟や墳墓に壁画が描かれていたように人間の手に取り戻そうとしているようにも思える。既存の資本主義を破壊しようとしたバンクシーの手法は、奇しくもフリーという新しい資本主義の手法ではあったが。

違法行為であるはずの落書きともいえるグラフィティーアートから、巨万の富を生み出したバンクシーは、果たして天才なのか、反逆者なのか。

ここまでの成果を生み出せば、天才と評する人間も多いだろう。

彼は、最初からこのシナリオを描いていたのだろうか。だとしたら、バンクシーを画家として見ると彼の才能を見誤っていることになるかもしれない。思想家?経営者?なんと表現をしたらいいか、これからの彼の活躍に目が離せない。