“おもしろくないことは一つもやりたくない” と語るクリエイターのお金の価値観
Interviewee
大澤麻衣
Profile
ASOMANABO代表/ME.TO(メト)ディレクター・デザイナー 青山学院大学卒。
CM制作会社TYO勤務後、写真家としてアーティスト撮影や映像作品のメイキングな ドキュメント的な撮影を中心に活動。
2006年PRANKNUTS設立、子ども服の世界へ。 現在、アーティストと創るアーティストのための服、ME.TO.のデザイン、ディレクションを手がけている。
2018年秋、世田谷区下馬でクリエイティブな習い事事業ASOMANABO(アソマナボ) を開業。2019年クリエイターを講師陣とした子どもの体験に特化したコンテンツ事業を開始。
2022年秋モノ(アパレル) とコト(習い事事業など)を合わせた新会社ASOMANABO設立。3児の母。 https://lit.link/maiosawa
インタビュアー・吉村 知子 取材・文/羽田朋美(Neem Tree) 撮影/矢部ひとみ
遊びを通して学ぶことをコンセプトに、アート、手芸、プログラミング、サイエンス、探究型学習など、個性豊かなスクールを開催し、クリエイティブな学びの場を提供する「アソマナボ」の代表であり、アパレルブランド「ME.TO(メト)」を手がける大澤麻衣さん。
クリエイターをサ ポートする仕事をしながら、自らもクリエイターとして活動する麻衣さんは、お金の管理がとても苦手なのだとか。一方で、麻衣さんにとって「お金」を生み出す原動力となっているものとは?
計画的に使うなど お金のやりくりは苦手
税理士・吉村知子(以下、吉村)
アソマナボでは、うちの子どもたちも料理のクラスとアートのクラスでお世話になっています。
大澤麻衣さん(以下、麻衣さん)
きょうだいでそれぞれ違う個性を持っていて、おもしろいですよね。
吉村
ありがとうございます。いつも楽しみに通っています。早速ですが、日常的なお金の使い方や、お 金とどう向き合っているかなど、お金にまつわるお話をお聞かせください。
麻衣さん
お金の話はちょっと苦手というか(笑)。そもそも計画的に使うとか、やりくりすることが苦手 なので、日常的にも衝動で買いすぎてしまわないように、買い物を夫にまかせて、夫が買ってき てくれたもののなから、料理をすることも多いです。
新しいプロジェクトを始めるときなど、直感的に「これをやりたい!」と思ったときや「これは いけるぞ!」ということにお金を使うことは、ごく自然にできるんですけれどね。
ちょっとギャン ブル性が強いのかな(笑)。
“ここにお金を使えば、誰かにわくわくしてもらえそう”“きっと大きく変わっていくはず”という思いがあふれてきたら、そのためのお金をどう用意するかを考えることはしています。
関わってくれる人が楽しいことがお金を生み出す原動力
吉村
以前、麻衣さんが「おもしろくないことは一つもやりたくない」と言っていたことがあって。そ れがすごく印象的で、私もたまにマネして使っているんですけれど(笑)
今のお話で、この言葉を思い出しました。麻衣さんにとって、お金は「おもしろいこと」をするための手段の一つなんだなぁと。
麻衣さん
そうですね。私にとってお金は、冒険するために必要なもの。わくわくすることにお金を使いた いですね。自分がやっていておもしろいかどうかっていうのもあるけれど、一緒にやってくれている仲間たちがわくわくするかどうか、ハッピーかどうか、ということも大切な基準。
「うちでやることで、この人たちが活きるかな」という視点で仕事を作ることもありますが、私はおもしろいと感じても、スタッフがそう思わないときは途中でやめたりもします。
いざビジネスとして形にした後も、楽しいと思ってくれる人がいそうにないなと感じたら、それもやめちゃいますね。それでも続けることで、もしかしたら利益が生まれるかもしれないけれど、情熱を注げないことを続けるのは難しいです……って、こんな話をして大丈夫かな。
吉村
大丈夫です(笑)
麻衣さんが生み出すビジネスで、そこに従事する人やそのサービスを購入す るお客さまがよろこんでいるということが、麻衣さんにとって重要なことなんですね。
情熱って、クリエイターの方が仕事を語るうえでキーワードの一つだと思うのですが、クリエイターの方に「お金をマネジメントしましょう」と言ってもそこはピンとこなくて、逆に情熱を削がれてしまうということはあります。
そのバランスをうまく取っていけるといいですよね。
麻衣さん
私もアーティストさんと一緒に仕事をすることが多いのですが、ビジネスの話をしていても、そもそも会話の軸が違うっていうか。
例えばアパレルで、ほかのデザイナーさんとコラボするときとか、みんな「楽しそうだからやろう」という基準なんですよね。「儲かりそうだからやろう」って言う人は一人もいない。
アソマナボのコンテンツをつくるときも、「これだったら楽しんでもらえるかな」とか、「これならきっとおもしろいものになるね」っていう会話の仕方で話が進むんです。
ただ、キャリアを積んできた人は、感覚的にそこに需要があるかどうかということがわかっていて、それも含めてものづくりをしているなぁと感じることは多々あります。 クリエイターと関わる側としては、クリエイションに関わってくれた方たちには、共にいい作品を生み出すことはもちろんですが、お金の面でのハッピーも生んであげたいっていう思いがすごくありますね。
関わってくれる人が楽しいことがお金を生み出す原動力
吉村
麻衣さんは自らがクリエイターでもあり、アソマナボではクリエイターをサポートする側でもあ りますが、クリエイターとしては、お金のことに関して、いかがですか。
麻衣さん
お金のことをちゃんとわかっている人から「ちゃんとしてください」とか「計画立ててくださ い」って言われますね。だいたい怒られます。
吉村
どのあたりを怒られるんですか?
麻衣さん
感覚的にこれは絶対大丈夫だって、何も考えずにお金を使おうとすることを怒られます。「大丈 夫」の根拠は、私がそう思ったから(笑)
それで、細かい事業企画を作らず進めちゃう。でも、私がそう思ったからじゃダメですもんね。
吉村
それでうまくいったパターンは?
麻衣さん
えーと、いろんなパターンがあるけど、長い時間かけて、何度も失敗して、稀に成功をして、無理やり帳じりを合わせていく感じですかね。
吉村
それはご立派です。お金のことを苦手とおっしゃっているけれど、麻衣さんはちゃんとお金を回しているなと感じました。スタッフや協働しているクリエイターさんにお金を分けられるように仕事をしていきたいという気概も素晴らしいですし。
楽しいとかわくわくするという要素が強いのは、麻衣さんが生み出すビジネスそのものの魅力にもつながっていますしね。
麻衣さん
自分一人でやっていることだったら、そこまでは思えなかったかもしれません。お給料を払わな きゃいけない人がいるとか、関わってくれる人たちのハッピーを生み出さなきゃいけないってな ると、やっぱり苦しいのは、お金がなくなることだから。
そのためのお金を循環させたいですね。関わってくれる人が楽しいとか、自分が提供するもので、関わる人が楽しいっていうのが一番だから。
来月の支払いが間に合わない!そんなときには?
吉村
お金のことで困りごとはありますか。
麻衣さん
何かを始めようと思ったときに、お金を借りなきゃいけないことですかね。これまでも何度か銀 行から融資を受けて返して……っていうのはやってきていますが、これくらい稼げばちゃんとお金を返していける、というのがあまりわかっていなくて。
自分の役割は、前に出たり人を巻き込んだりしながらコンテンツをつくっていくことだと思っていますが、お金の管理はいくらやってもできなくって。
だから苦手な部分は、そういうことがわかる人とパートナーシップを組むなり、税理士さんと密に相談したりしながらやらなきゃいけないんだなということが、会社をつくってしばらく経ってから気づきました。
お金の専門家が見てくれたら、ちゃんとできるんだっていうことも最近わかりました。
以前は、銀行の残高がどんどん減っていくのを見ながら、次はいつ入るんだっけ?みたいなこともあったのですが、今は一緒になって考えてくれる人がいるので、助かっています。
吉村
いいですね。お金の動きを見ることって、すごく大切なんです。
お金の動きと言っても、難しい指標は一切必要なくて、麻衣さんのように、今キャッシュがいくらあって、来月の支払いに見合うかどうかをざっくりでもいいから把握することがポイントです。
麻衣さん
把握したはいいけれど、キャッシュが不足していた場合はどうしたらいいのでしょう。
吉村
「ここの売り上げがちょっと足りませんね」と数字で見せると、不思議とみなさん、間に合わせ てくるんです。意識するだけで変わるし、実際にみなさん、がんばります。
麻衣さん
仕事をつくって生み出すんですね。維持していきたいですしね。やっぱり、やりたいことはやりたいから。
根っこの部分にあるのはやっぱり、「人」
吉村
クリエイターが豊かな暮らしを送るために大切なことは、なんだと思いますか。
麻衣さん
人との出会いだと思います。アートワークに集中するためのサポートをしてくれる人との出会い だったり、思いに共感して、何かを一緒に作り上げてくれる人との出会いだったり。
私は自分が好きな人にどんどんアタックして広げていくのが得意ですが、そうではない人もいる。だから、ゆくゆくは、何かそういう場が作れたらいいなと思っています。
その場にいる人たちが自然発生的に関わっていくような、サロンなのかスクールなのか、会員制の何かなのかはわからないけれど。感覚が合う人同士がつながれるコミュニティがあるといいなって。
吉村
ここまでお話を伺って、やっぱり麻衣さんって「人」が先にくるんだなぁと感じました。よろこ ぶ「人」の顔が見たいから仕事を生み出す。周りの「人」をハッピーにしたいからお金を回す。
そして、豊かな暮らしのために大切なのも「人」。
何が幸せなのかがしっかりと固まっているんですね。お金に関して言えば、余るほど欲しいという感じではなさそうですが……。
麻衣さん
欲しいです!笑
例えば感覚が合う人同士がつながれる場所を作りたいって言ったときに、 ビルを買えたらいいですよね。1階はカフェで2階はサロンでって。お金があれば、楽しいことを生み出すことができるから。
吉村
余るほどのお金の使い道も、麻衣さんの場合は、すべてだれかのハッピーのために、わくわくの ためにってところに行き着くわけですね。やっぱり、お金の使い方には、そのひとの価値観や人 生が表れるんですね。
麻衣さん
お金の使い方には、価値観や人生が表れる。確かにそうですね。
お金の使い方は、みんな違いますしね。
吉村
そうですね。何を優先して生きていきたいかはみんな違うから、そこに正解はなくて。人それぞれでいいと思っています。
大切なのは、自分にとって大事なお金の使い方を自分で見極めていくこ とだと感じます。
麻衣さん
お金の亡者がいてもいい(笑)
吉村
いてもいい(笑)
麻衣さん
でも徳のある人って、稼いだお金をちゃんと人や社会に向けて使っていますよね。私自身、ま だまだ足りないですけれど、今後も人も自分もハッピーかどうかを基軸に、わくわくすることに 使っていきたいです。
吉村
結局みんな、幸せになるために働いているわけですからね。楽しくないといけない。
そして、 根底にビジネスに対する楽しさやわくわくがあれば、お金のことを考え、循環させていけるようになる。麻衣さんのお話を伺って、そう感じました。
麻衣さん、ありがとうございました。
“正解のない”クリエイティブなことと、それを支える“正解がある”お金のこと。クリエイターが豊 かな生活を送るには、どちらも大事な要素です。
そこで、「お金との関係」について、現役で活躍するクリエイターのみなさんにインタビュー。
日常のお金との向き合い方や価値観をはじめ、 創作活動を続けるためのお金の考え方について幅広くお聞きします。