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さかいりょうへい
RYOHEI SAKAI

クリエイターとお金

No_5

お金を使うこと・受け取ること・稼ぐことが 人一倍わかっていなかった絵描きの決意

Interviewee
さかいりょうへい

Profile

日常の暮らしの中での自然との関わり・つながりを感じながら、ときには日本全国から海外まで、右往左往と自由気ままな旅を通して人・自然との出逢いから得る感性を大切に、主に動物や植物、風景、宇宙、光、それらを自分の内側で感じることで観えるものをモチーフに作品を描いている。
【Instagram】https://www.instagram.com/sakai_ryohei/

【HP】https://ryohei-sakai.jimdofree.com/

インタビュアー/吉村知子

 

構成・文/羽田朋美(Neem Tree)  撮影/矢部ひとみ

“正解のない”クリエイティブなことと、それを支える“正解がある”お金のこと。

クリエイターが豊かな生活を送るには、どちらも大事な要素です。そこで、「お金との関係」について、現役で活躍するクリエイターのみなさんにインタビュー。

日常のお金との向き合い方や価値観をはじめ、創作活動を続けるためのお金の考え方について幅広くお聞きします。

今回のゲストは、長野県の山あいの村に暮らし、人と自然との関わりを感じながら、自然、宇宙、光をモチーフにした幻想的な作品を生み出す絵描きのさかいりょうへいさん。

2024年1月に吉村知子税理士事務所が東京・北参道にオープンしたソーシャルグッドギャラリーと、りょうへいさんが暮らす里山のご自宅とをつなぎ、お話しいただきました。

インタビューの中で、りょうへいさんのお金に対する意識が、どんどんクリアになっていく様子が印象的でした。お金を受け取るのが苦手な、すべての人に捧げます。

離婚して一転したお金との向き合い方

自宅アトリエにて。photograghy /Misaki Yokoe

税理士・吉村知子(以下、吉村)

絵描きとして活動をスタートされて18年とお聞きしました。絵描きのお仕事のどういったところに魅力を感じますか?

さかいりょうへいさん(以下、りょうへいさん)

最近感じているのは、やはり人との出会いですね。僕はそこまでアグレッシブなほうではないのですが、絵を通しての活動の中での素晴らしいご縁が楽しかったり、うれしかったり、幸せだったりします。

吉村

3年前に東京から長野に移住されたそうですね。

りょうへいさん

はい。結婚して子どもが生まれて元妻の実家に住まわせてもらっていたのですが、実家が引っ越しをすることになり、自分もどういう暮らしをしていきたいのかを改めて考えたことが移住のきっかけでした。

昨年離婚して今はひとり住まいですが、共に子育てをしていこうというスタンスは変えずにいられたらというのもあり、元妻も子どもも同じ村に暮らしています。

吉村

昨年は変化の1年だったのですね。

りょうへいさん

そうですね。環境的にも、心理的にもたくさんの変化がありました。遅いとは思うのですが、離婚したことで、ようやくいやおうなしにもお金と向き合わなくてはならなくなって……それも大きな変化でしたね。

同じ家に暮らし、共に生活を切り回すパートナーがいると、お金だけでなく生活全般においておたがい相手にゆだねられることが多々あり、ちょっとうまくいかないことがあったとしても、ごまかせてこられた部分はかなりあると思うんです。

でも、いざ一人で生活してみると、全部「自分」なんですよね。何をしてもしなくても、自分にしか返ってこない。

家事も家計も、精神的な面でも誰かがサポートしてくれるわけではないから、すべて自分で能動的にやっていかなくてはならないですしね。

吉村

確かにライフスタイルの変化で、お金との向き合い方も変わりますよね。そもそもりょうへいさんは、お金に対してどんな思いをお持ちでしたか?

りょうへいさん

人と比べるものでもないですが、僕はお金を使うこととか、お金を受け取ることとか、お金を稼ぐことが人一倍わかっていないところがあるのですが、それでもなんとかなった、という人生を送ってきました。

自分一人が生きていくためだけなら、やっていけるっていうのはもうわかったんですけれど、子どもにかかるお金のところまでは全然考えられていませんでした。

そこに気づいたときにハッとさせられて、このままではダメだなと感じました。

「なんとかなった」から「ちゃんと稼がなきゃ」への意識の変化

photograghy /Misaki Yokoe

吉村

先ほどお話しされていた「お金を使うこととか、お金を受け取ることとか、お金を稼ぐことが人一倍わかっていない」という言葉が印象的で、くわしくお聞きしたいです。

まず、お金を使うことについて。どんなふうに使いたいですか。

りょうへいさん

自分が心地よくいられるために使いたいですね。お金に余裕があるときは、自分を行きたいところに連れて行ってあげたいとか、自分がやりたいことをやらせてあげたいという思いがあります。

吉村

自分のことだけど「連れて行ってあげたい」「やらせてあげたい」っていう表現がおもしろいですね。

りょうへいさん

僕は結構、自分を後回しにしちゃうタイプだなっていうのがわかってきて、その癖はやめていきたいなと最近思っています。だから「自分のことをちゃんとしてあげる」という感覚を持つことが今の僕にとってすごく大切です。

でも、自分のことを「他人」として捉えないとなかなかちゃんとしてあげられないので、そんな表現になったのかもしれません。

吉村

お金を受け取ることに関しては、どうですか。

りょうへいさん

僕は好きな絵を描いて展示会を開催して、その絵を購入いただく、という活動をメインでやらせていただいているのですが、絵の価値、金額を決めるのも自分なんですね。

これを18年間やってきていますが、お金を受け取る以前に、そもそも価格をつけることに悩み続けています。それこそ、誰かがつけてくれたりしないかなぁなんてボヤいてみたり(笑)。

吉村

価格はどうやって決めているんですか?

りょうへいさん

もちろんいろいろと経験してきた上でのことではありますが、基本的には直感で決めています。この金額だと売れるとか売れないとか、そんなふうに頭で考えるのではなくて、絵を通して浮かんでくる金額をお伝えするイメージです。

単なるひらめきともちょっと違っていて、「自分が欲しいと思っている金額をちゃんと決めて提示する」ということをまず念頭に置いて、感覚的なものを信じてゆだねています。

吉村

直感で決めて、利益は出ていますか? ビジネス的には、採算が取れていることが大切です。お金を稼ぐということに関しては、どんな思いをお持ちでしょうか。

りょうへいさん

血眼になって稼ぐとか、そういう意識はまったくなくて、これまでは何とかなってきたというのが正直なところなのですが、自分一人で生きているわけじゃないし、やっぱり人と関わって生きていきたい。

その点でもお金があるからできることっていっぱいあると思いますし、子どものことを考えると、“ちゃんと稼がなきゃな”っていうのは、今すごく思っています。

僕は幼い頃からお金に対する拒否感みたいなものがすごくあったのですが、子どもや人とより心地よく関わっていくためと気づいてからは、最近やっとそれが薄らいできました。

具体的に必要な金額を知ることがお金の不安を解消する一歩

吉村

「稼がなきゃ!」の根底にあるものが、人とのつながりや、お子さんへの思いなんですね。自分も周りも幸せになるためのお金を稼ぐ……いいですね!

ちなみに、いくら必要か出していますか? 具体的な金額を出すと、いくらのギャップがあって、それをどう埋めていくか、という道筋が見えてきます。

FP(ファイナンシャルプランナー)さんにお願いするのがおすすめです。

りょうへいさん

このくらいの金額まで売り上げがいったらいいな、と漠然と思うことはあったんですけれど、具体的な金額を出したことはないですね。

吉村

具体的な金額がわかると「どうしよう、足りない!」と焦る場合もありますが、もう、やるしかないので。目標も立てやすいですよ。それに、不足分が漠然としているから怖いんですよね。

りょうへいさん

なるほど、具体的な金額を出す……ちょっとやってみようと思いました。

今、吉村さんのお話を伺っていて、ふと、僕は絵をビジネスと捉えてやってきている感覚が弱いから、お金のことがよくわからなかったのかなと感じました。

先ほど言ったみたいに、絵の金額を決めるときも採算ではなく直感ですし、さらに売り上げを上げるためにどうしたらいいかではなく、直感力を磨いていくためにはどうしたらいいか……とか、そっちのほうを注視しちゃうんですよね。

ビジネスをやっている感覚は本当になくて、自分が今、何を感じていて、何を表現したくて、言っちゃえば、この線を引きたいのかどうか……ということに心血を注いでいる感覚が強いです。

その先に、そうやって生み出した作品を届けて、お金にして、生活費を作るという行動があるという感じです。

吉村

ビジネスという形にとらわれる必要はないと思います。それでうまくいっているのなら、なおさら問題ない。

りょうへいさん

確かに、ビジネスという形にとらわれずにうまくいけば、それが一番ですね。
僕はこれまで、いろんな人に支えてもらったり、甘えさせてもらったりしてきたから、今度はそれをちゃんと返したいという思いがすごくあります。

本当にありがたいことに、僕が展示会に行くと、主催の方がお宿を用意してくださったり、お食事を用意してくださったりするのですが、僕もそういうことができたらいいなって思いもあって。

誰かがうちの村に来てくれたときに気持ちよく過ごしてもらえるようにおもてなしをするとか、楽しくて幸せな時間を提供するとか。

一緒にしゃべっているだけでもちろん楽しいですけれど、そのランクを1つ上げようと思うと、やっぱりお金っていうのは必要だなって思います。

具体的に必要な金額の指標になるのは、結局は、自分が何をしたいかなんですね、きっと。

「お金は幸せを巡らせるためのツール」と思えるようになった

“Unconditional harmony Blue bottle 無条件の調和”  photograghy /Misaki Yokoe

吉村

りょうへいさんにとって、お金とは何でしょう。

りょうへいさん

「お金はよくないものだ」という思いをずっと持ってきました。

でも、そこに引っかかっていたから流れがスムーズではなかったことがわかってからは、「お金は幸せを巡らせるためのツール」と捉えると、気持ちいいなと感じています。

やっと、「あったらうれしいな」と思えるようになりましたし。

吉村

「お金は幸せを巡らせるためのツール」、いいですね。お金は循環だと思うことは、すごくいいと思います。

りょうへいさん

僕はうれしいとか楽しいとか心地よさとか、そういう感性をいかに込めて描くかということを人生の大半を占めるくらいやってきました。

その中でいただいたお金を循環できたかどうかと言えば、結局自分だけで止めてしまったかもしれないと思うこともあります。

昨年、ありがたく受け取ったお金を使うことは、また別の形で循環が生まれるっていうことにつながるんだな、ということを学ぶ機会があってからは、循環ってすごく大切だなと感じるようになりました。

吉村

私も先週くらいから「受け取る」というのがキーワードで、ちょうど考えていました。意識しないと、なかなかできないですよね。

りょうへいさん

そうなんですよね。いかに受け取り上手になるかっていうことは、すごく大事だなと思います。それを拒否してるのって、自分だけですからね。

今、気心が知れて信頼できるアーティスト仲間と一緒に、ご購入いただいた方からご希望のモチーフやメッセージを直接伺いながらボトルに彫刻して、世界で1つだけのブルーボトルをつくるプロジェクトを行なっています。

ブルーボトルというのは、自分で水を入れて太陽にかざして、その太陽のエネルギーを体内に取り入れるというアイテムなのですが、僕たちは、自分で自分を癒すというように、「自ら行う」ということをコンセプトにしています。

このプロジェクトを一緒に行なっている仲間も僕と同じようにお金のことに関しては受け取り下手だったという共通点があったりもするのですが、今回はそこも乗り越えていこうと話し合ってスタートしました。

吉村

ブルーボトル、インスタで見ました。すごく素敵ですよね。そんな背景があったんですね。

私も結構「すみません」って思いながら報酬を受け取ってしまうほうなので、そうじゃなくて、「自分は受け取るのにふさわしい」と考えられるように変えていこうって思っています。

りょうへいさん

お金を受け取ることも、自己肯定感につながってくるってことですね。

受け取り上手な人は、ちゃんと自分を肯定できている! 僕も最近、ありがとうございますって気持ちよく受け取れたほうが、エネルギーとしても気持ちのよい循環になっていけるな、なんて思います。

ブルーボトルに刻まれる絵も1つ1つ異なる。photograghy /Misaki Yokoe

長野に移住して増えた“地球を感じる時間”

吉村

最後に、りょうへいさんにとってのソーシャルグッドな活動について教えてください。

りょうへいさん

僕が住んでいる村は移住してきた方も多く、地球環境のことを考えることが根っこにあるような人たちがたくさんいます。

みんな地球にやさしいしい洗剤を使っていたり、野菜も自分で育てたりしている人が多いです。自分の作った野菜を食べるというのは、特にここが地元のおじいちゃんおばあちゃんたちの多くがやっていることで、「余ったからもらって」とコミュニケーションの1つとして循環させながらいただくのが当たり前の環境です。

僕も畑をやっているんですけれど、畑をやることで土地や大地、自然について学んだり、地球のことを考えたり感じる時間がすごく増えたので、それが僕にとってのソーシャルグッドにつながるのかなと思います。

にんじん1本から、何万粒って種ができるんですよ! すごいことじゃないですか。にんじん1本あれば、何万人もの食事になり得ますからね……そういうことを知れたことも、ここへ来てよかったことの1つです。

吉村

素敵なお話をありがとうございます。すごく楽しいインタビューでした。

奇しくも私自身が最近考えていることがたくさん話題に上がってきて、改めていろいろ考えました。本日は本当にありがとうございました。

“無条件の調和” さかいりょうへい
“無条件の調和” さかいりょうへい